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僕たちの将来 [自分]

中島みゆきの歌に 「僕たちの将来」 という曲がある.
1984年発売のアルバム 『はじめまして』 の9曲目に入っている.

【僕たちの将来は 良くなってゆく筈だね】

私は中学2年生だった.
いま自分が就いている職業を,既に考えていた.

 

 

 

学校では よく,将来の夢を作文に書かされるものだ.

小学1年生に,なりたいものなんてあるのだろうか,普通.
私はちょっと考えて,別になろうとは思ってないけど,
自分が知っている職業をウンウン思い出して,
「じゅうい」と書いた.獣医である.
教室の壁に一斉に作文が貼り出されて,一瞬言葉を失う.
「およめさん」が圧倒的に多いのだ.これって職業?

小学2年生.困ったな.なりたいのないぞ.
時間が迫る.仕方ない,書いた.「学校の先生」.真っ先に考えたのは,先生のウケ.
やはり教室に掲示されて,なんだかみんなの冷ややかな視線を感じる.
あからさまだったかな.しくじったぞ.

小学3年生.ようやっと,”なってもいいかな” と思う仕事を見つける.
「作家」と書いた.
男子が覗き込む.「なんて読むんだぁ」
「さっか」
「さっか? さっかって何? サッカー? おめぇ女のくせにサッカー選手になんの?」
私は相手にせずに心の中で叫んだ.

『バカ!』

「作家」は,自分の中でしばらく大事に温めていた構想だった.
しかし,ほどなくして諦めることになった.親の猛反対(と私は受け止めた)である.

   ある日の国語の授業は,「作文」であった.
   昨日までの秋の連休での出来事を書けということらしい.
   (決して,担任の手抜き:連休で遊んで授業の準備が出来てない とは思わない素直な私よ)

   昨日は親戚が来ていて,みんなで「芋堀り」に行った.
   でも私はかったるくって行かず,家で本を読んでいた.
   帰ってきた親戚は楽しそうで,少し後悔した.
   行きがけの道が工事をしていて,ずいぶん遠回りをして畑に行ったらしいことを聞いた.

   私は作文を書いた.「芋堀り」というタイトルで.
   行ってもいない芋堀りを,
   工事で道を迂回して行ったことや,芋掘り中の大騒ぎやら,
   いろんな場面や会話を想像しながら,原稿用紙のマスを埋めていった.

   作文には大きな花マルが付き,
   『芋掘りの様子がイキイキと描かれていますね.先生も行きたかったなー!』
   と赤ペンで大書きされている.
   しかもあろうことか,父兄の授業参観日に
   「今月の優秀作文」として掲示されてしまったのである.

   家に帰った私を,父と母は鬼の形相で待ち構えていた.
   「おまえ,芋堀りなんか,いつ行ったんだ?」
   「・・・あ,作文に書くことが,なくっ・・・て・・・」
   「適当なこと並べて,花マルなんて,よくそんな頭が回るな,おまえは!」
   「・・・いや,あの・・・」
   「嘘書いて褒められて.嘘つきは泥棒の始まりだ.おまえはロクな大人にならねぇぞ!!」
   「・・・えっと・・・はぁ・・・」
   しばらく家では教科書以外の本を読むことを禁じられた私であった.

あの時,想像のみで書いたことを面白がってくれたり,作文の出来栄えに感心してくれるような,
気持に余裕のある親であったなら,果たして私は,作家への道を選んだかもしれないと思う.
存外,こういうところに人生の分かれ道なんて転がっているものなのだ.

小学高学年からの,将来の夢を綴った作文の内容は覚えていない.
なんとなく,記憶の片隅に「コメディアン」と書いたような憶えもないではないが,
おそらく,1980年末に亡くなったチャップリンの影響があろう.
あの頃,よくテレビで往年の映画が放送されていた.私はそれでほとんどの作品を観ている.

 

中学になると,あえて将来の夢をおおっぴらに語る機会は少なくなった.
中学2年生で私は,親にも先生にも相談せず,今の職業に就く心積もりをしている.
しかしそれは,夢ではなかった.希望でも,目標でもない.

「だって,そうなっちゃうから」

根拠のない自信だけが,十代後半の自分を突き動かしていった.
1991年.バブルの弾けた東京で,
20歳の私は本当にその職業に就き,今も同じ会社で苦労している.

 

前出の歌 「僕たちの将来」 は,

【僕たちの将来は・・・僕たちの将来は・・・僕たちの将来は・・・良くなってゆくだろうか】

と歌が終わると突然,地獄の番人のような男の声で響くカウントダウンでしめくくられる.

25年も前の,日本がバブルに向けて突入する頃の歌なのに,
なんだか現代の社会状況を予見しているようで恐ろしい.
思えば,「将来」に希望を持って夢を描けた時代は,昭和あるいは
せいぜいのところ20世紀で終わったのである.

 

「およめさん」 と作文に書いた同級生たち.
今頃,優しいダンナと可愛い子どもたちに囲まれて,幸せだといいなぁ.
「ゴールデンウィークなんて,疲れてお金かかるだけね.パパ,今度は私の肩も揉んでよ」
なんて,なにげない夫婦の会話してるといいなぁ.


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コメント 11

Sho

この曲を最初に聴いたときの衝撃は、今もまざまざと覚えています。
ヘッドフォンから微かに微かに響いてくる不協和音。だんだん大きくなっていくカウントダウン。
あの日のことを思い出しました。
>「だって,そうなっちゃうから」
そうなんだと思います。
それをする人は、それをするんだと思います。
by Sho (2009-05-09 22:10) 

midori

Sho様 nice!ありがとうございます。
時代背景的に、歌の後半の
『蒼の濃すぎるTVの中では まことしやかに熱い国の戦争が語られる』
ってのは、イ・イ戦争のことかなと思います。
『僕は 見知らぬ海の向こうの話よりも この切れないステーキに腹を立てる ハァ。。。』
というフレーズは、1980年代に中学生だった私にはショックでした。
尾崎豊が現れた時代ですよ。
三十過ぎた大人である、あの中島みゆきが、こんな詞を。
「無関心が悲劇を生む」。当時の私は本気で憤っていましたからねえ。

by midori (2009-05-12 22:06) 

shino

なんか、いい感じ。
おかしくもあり、
切なくもあり、
私も、
時折、ほんとにこの道を選んで良かったのかな?
なんて思いますけど、ほかに出来る事もないので、自分を納得させています。

でも、きっと私にとって、今が幸せなのです。
by shino (2009-05-12 23:05) 

小坊主つばめ

想像で作文→そして入賞っ!

じ・つ・わ・・

僕もおんなじ経験あります(笑)(>_<)(笑)

学級新聞に載ってしまいました。

内心、すごくビクビクしてましたが、親は笑ってくれました。
すごくホッとしました。

僕たちの将来・・

「将来を知りたければ、今の自分を見ろ・・」とは、お釈迦様のお言葉。
「いつの間にかじゃない、自分で選んで歩いたこの迷路・・」とは、B’zのお言葉。

良くなるようにします。
by 小坊主つばめ (2009-05-13 23:27) 

midori

shino様 nice!ありがとうございます。
自分で選択したようでいて、すべては「縁」ではないかと思う、今日この頃。
いいじゃないの幸せならば(by相良直美 古っ)。

小坊主つばめ様 nice!ありがとうございます。
ありがちですよねー。うっ余裕の親御さんじゃ。
今の自分。。。どげんかせんといかん(by宮崎県知事)。


by midori (2009-05-16 14:42) 

ヤムスターファ

生き生きした思い出ですね。僕も小3の頃に書かされたなあ、将来何になりたいか。こまっしゃくれていたけど素直でもあったので、『できれば物理学者』と書いた。張り出されたのを見ると、「できれば...」なんて付いているのは僕だけ。みんな素直に先生の手に乗ってるのか、良い加減なのか、と悩みました。昭和30年頃の話です。
by ヤムスターファ (2009-08-07 01:03) 

midori

ヤムスターファ様 nice!ありがとうございます.
ようこそ,いらっさいまし.
『物理学者』ですかー,ヤム様(←お気を悪くされたらゴメンナサイ)なら,
充分にご素質アリ,と思いますが.
つい「できれば」を付けてしまうなんて,ヤム様らしくてステキですよ.
みんな(私を含め)ずーずーしーヤツばっかりはびこってますからねー.

by midori (2009-08-10 12:59) 

hil

この歌、知らないけど、
陽水の『傘がない』的なテーマなの?
そうだったらある意味で逆説的な言葉なのかもしれないよ。

僕は将来の夢とかを書くのは本当に嫌だった。
なんというか、それは個人の「秘密」の領域の話で、
人に話したら「減る」たぐいのものだと思っていたから。
もちろん、いつも嘘か冗談を書いていた。
「釈迦」とか。

by hil (2009-10-12 00:21) 

midori

hil 様 nice!ありがとうございます.
『傘がない』ってどういうの? 似たような感じの歌?
確かに将来の夢を発表するのは抵抗ありますね.
私もどちらかといえば大人が喜びそうなの書いてたし.
それにしても「減る」って発想...それは思いつかなかった.

by midori (2009-10-13 21:08) 

hil

こんなの。歌ってるの、ウーアだけど。http://www.youtube.com/watch?v=K8eoWQ8RLd0&hl=ja

深刻で悲しいことはいろいろとあるけれど、
そんなことより問題は僕ひとりの上に降る雨なんだ。
というのは、今回の選挙結果みたいじゃない?
時代は一周したのかもね。



by hil (2009-10-14 07:03) 

midori

hil 様 情報ありがとうございます.
そういや知ってました,この歌.
陽水の絶叫聴いてても,タイトルや歌詞をあんまり意識したことなかったなぁ.
そうね,トーンが似てるかも.
当時はね,そんな個人的な,問題ともいえねーちっちぇーことなんかどーだっていーんだよ,他に考えっことあんだろーがぁ!そこの男子!!って思ってましたねぇ.
なんつーか,ガチガチの全体主義でしたわ.
カワイくない女子中学生.あはは.
by midori (2009-10-14 21:28) 

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